はんこがない

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嫁入りの時に、親がはんこを作って持たせてくれた。実印(名前だけ)・銀行印・認印の3本。婚姻届には実印を押した。と言っても、入籍前だと印鑑登録も出来ないから認印と同じ用途にしかならなかったのだが。

配偶者は結婚の前月から実家の会社で働く様になっていた。修行とやらで5年ほど他所の会社(近所の)で働いていたらしいが、実家に戻り入社したその時から専務だと。今考えるとおかしいのだが、世間知らずはそんなものなのかなと思っていた。

嫁に行って半月ほどしてから銀行口座を作りに銀行へ行った。普通(総合)口座と定期口座を開設しようとしたら「定期口座はマル優の枠内ではお作りできません」と言われた。何のことか全然判らない世間知らず。とりあえず普通預金の口座を作ろうとしたら、私の身分を証明するものがない。持って行ったパスポートは旧姓のまま。ただ、転入した時に貰っていた住民票があったので口座を作ることは出来た。健康保険証はまだ貰っていなかった。というか、私の名前が入ったものはなかったのだ。会社の担当(同族会社なので大叔父が担当していた)が手続きを怠っていただけなのだが、そんなこと知らないから『病気にもなれないわ』と心配していたものだった。

なぜ定期預金口座が作れないのか?それより、銀行印が見あたらなかったのでとりあえず認印を持参して口座を開いた。一旦帰宅し、住民票を持っているのだから今のうちに郵便局の通帳の改姓をしなければと考えた。仕舞っておいた場所を探すが実印も銀行印も通帳もないのだ。

良い子ちゃんは困った。嫁入りして半月しか経っていないのに『大切なもの』の管理も出来ないのかと思われたらどうしよう!誰かを疑うなど考えもせず青くなって探し回っていた。

そんなところへ、いつもの通りノックもせずに部屋に入ってきた姑が「何してるのだ、食事の買い物には行かないのか」と言う。出かけるときに持って行ったバッグから銀行の袋が見えていたのを見つけ「銀行に何しに行った?口座など必要ないだろうに。作ってしまったのなら通帳は預かっておいてやるからよこしなさい」とバッグを手に取るのだ。

バッグから通帳などを取り出し「ちゃんと金庫へ入れておいてあげるから」と当たり前の様に言う。続けて「はんこも預かってあるから」と。びっくりして言葉も出なかった。仕舞っておいたものをどうして姑が持って行けるのだ?やっとのことで「仕舞っておいたはずですけれど」と言うと「子供のものを親が持って行くのに許可がいるのか?変な子だね」と返ってきた。

なんかおかしい。その違和感の原因が少しずつわかり始めていた。姑の中では自分の家のなかでノックなど必要ないのだ。子供のものの管理は、たとえ成人した子供であろうと親が手出しできるのは当たり前という。私の常識では考えられないことが当たり前と横行している家での生活はまだ始まったばかりだった。

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