うちは神道である。
夫と結婚するときに、神道である旨は聞かされていたし、
薩摩の国の大きな神社の関係であることも知っていたので
いい年して宗派の違いも把握していないのは、
とても恥ずかしいことだと自覚していた。
知らないことはちゃんと調べておくべきだとも思ったから、きちんと学んだつもり。
しかし、良い子ちゃんにとっての常識は、必ずしも皆の常識ではないと言うことを思い知るのは、すぐだったのだ(笑)
「私はずっと仏教ですよ」と、亡くなった夫の父親の年祭(年忌)の事を尋ねたときに、母はにこにこと言い切った。
(えっとーーーーー)「本家に伺ったとき、ご先祖様にご挨拶しましたけれど、お父さんもあちらにいらっしゃるんですよね?」と聞いてみた。
「そうね。でもあのお家変でしょ?仏壇無いのよ」と言う。
いや。神道なんだから、ちゃんと立派な祖霊舎あるから。
そう思ったけれど、何も言わないことにした。
夫も同じように考えていたら困った物だが、
彼はきちんとそのあたりを理解していたので
事を荒立てる必要もなかったのだ。
実家にある、簡単な祖霊舎や神棚が、
年末のみにしか手入れされなくたって、
我が家がきちんとやるべき事をしていればそれで良かったのだ。
でも、母が亡くなったらそうも言っていられない。
喪主は夫で問題はない。
が、葬祭場での準備に脳筋が騒ぎ出した。
「ねぇ、どうして焼香台がないの?お線香は?お母さん可哀想!」と言って泣く。
神葬祭だから、祭壇も白木になるし、いろいろな点で仏式とは大きく異なる。
親戚に聞いた話によると、30年以上前に夫の父が亡くなった時には
関東では仏式で葬儀を行い、薩摩で神道で改めて葬儀を行ったのだそうだ。
・・・・・うーん、不思議だ。
「お母さんは仏教徒なんだから、どうして仏式にしてくれないの?」と泣かれた時には、もうちょっとで怒鳴りつけそうになったですよ。
神道だからさ。数珠いらないし。
あのね。焼香じゃないから。玉串だから。
お坊さんじゃないし、神主さんだからね。
と言うことを、優しく優しく繰り返し言い聞かせる。
「あんな木の枝でやるやり方なんて覚えられない!」と駄々をこねる57才の脳筋。
喪服は大丈夫。
しかし、靴!爬虫類柄とかエナメルはだめだから!
喪の時には喪の靴がひつようと言って聞かせるが、
「えーーー、なんで?持ってないよ。黒ならサンダルとかミュールじゃ駄目なの?」って、おまえいったい幾つだよっ!
「靴、買えって言うの!」「買いましょう。きちんとした物持っておく必要有るでしょ!」と言い切った。
一緒に行った靴屋で「これで良い?」と手にした靴は、ゴールドのバックル付き→却下!
「これならいいでしょ」というのは、バックがベルトの物、露出度がはんぱ無い→却下!
「履きたいのがないじゃない!」と怒る脳筋。「履きたい靴を探しているんじゃないからね」と言い聞かせて、探させる。
やっと、シンプルな布張りの黒いパンプスが見つかった・・・・(ヒールがエナメルだけど)
夫が「恥ずかしいって事を知らないヤツには恥ずかしくないんだから、ほっとこう」と言う。が、さっさと会計を済ませてきてしまったので、もう諦めた。
「アクセサリー、つけちゃだめだからね」と言ったら
「なんでっ!」と怒り出す。
情けなくて、腹が立って、そっちのほうで涙が止まらなかった。
しかし、まだまだ。
これから納棺なんです。
これで済むはずがないんだよね。